ジェネリック大国インドの特殊知財事情(安価なインド製薬)

インドが世界の後発薬(ジェネリック医薬品)市場で急速に存在感を増しているのをご存知ですか?
世界の約5分の1のジェネリック薬品がインドで生産されております。
そして、世界の3分の2の医薬品はジェネリック薬品に置き換わり価格競争の時代になっています。
これは多くの薬が医薬品特許が保護される期間(約20年)を経過している事もあり、多くの薬が医薬メーカーがジェネリックを製造販売を開始しているからです。

一般的な医薬品は国内では保険適用されるので、都度の支払い低額ではありますが、それでも定期的な服用が必要なお薬ですと負担が重くなってきます。

高齢化時代で医療費削減が必要な現代、ジェネリック大国のインド製品が活躍しています。

安価なジェネリックなのは先発薬の大部分が特許権

お薬の原価、製造コストなどは決して高くはありません。しかし、医薬品が高額に設定されるのは膨大な開発、研究費などが医薬品の隠れたコストとして新薬の価格に上乗せされているます。
このように医薬メーカーが新薬開発できれば、様々なコストを上乗せし多くの利益を得られるように販売価格の設定ができるのです。これが新薬開発の最大の利点になります。

このように、新薬の開発が出来れば特許により、他社や他国の医薬メーカーから勝手にコピーされないように利益が守られるのが医薬産業です。
しかしながら、インドのジェネリック産業の急成長の背景にあるのは、実はインドの特異な医薬品特許や知的財産事情が関係しています。
ジェネリックは特許保護期間が満了すれば他メーカーも同じ成分の医薬品を安価に製造・販売が出来ます。しかし、インドでは特許保護期間内でも新薬の製造・販売されていた時代がありました。

インドがジェネリック大国と呼ばれ急成長した背景には特許を無視した競争原理が国家主導でありました。

インド特有の特許制度が合法的なコピー品を生み出す

インド特有の特許制度が合法的なコピー品を生み出す

戦後のインドは、輸入代替産業の育成を目指し、製薬分野において社会主義的色彩の濃い産業政策をとってきた。
その代表的なものが、医薬品に関する物質特許を認めないという「1970 年特許法」である。

医薬品は製法のみを保護の対象としたため、インドの各医薬品メーカーは独自の製法を開発して製法特許を回避しさえすれば先進国の医薬品メーカーが多額の費用をかけて開発した医薬品をインド国内で合法的に製造販売することが可能な状況にあった。
インド政府が物質特許を導入しなかった背景には、先進国の高額な医薬品の特許の成立を妨げることによりインド国民に手頃な価格で医薬品へのアクセスを保証するという公衆衛生上の戦略があった。

新薬などの特許で保護された高価な医薬品では貧しい国民が先端医療を受ける機会の喪失につながるとして、インドでは合法的に医薬品のコピーができていた。

インド国策ならば特許期間でも合法的にコピー品の製造

上記のようにインド国民の命を守るために、高額な医薬品特許はインド国内では認めないという結果、、模倣(もほう)を容易にすることにより外国企業の影響力を抑えてインドの製薬産業の飛躍的な成長に貢献することにもなった。

医薬特許が貧しい国の人を殺す」というのは高額な海外医薬品が買えなく死んでしまう国民がいるという事です。これは貧しい南アフリカなどでも同様です。
インドの安価なジェネリックは世界の命を救う。

1995 年の世界貿易機関(WTO) の発足に伴い、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPs協定) の規定を遵守することを余儀なくされたインド政府は、その履行期限を迎えた2005 年の特許法改正で物質特許制度を導入したものの、その一方で、「既知の物質について、何らかの新規な形態の単なる発見であって、当該物質の既知の効能の増大にならないものは、発明に該当しない」という規定を設け、特許法の保護対象を著しく限定している。

通常、多くの医薬品メーカーは、既知の化合物の誘導体(エステル等) を合成したり、結晶型や剤型を工夫したりすることにより諸物性を改良して新薬を開発する。
だが、インドに関しては、上記の規定により、これらの医薬品について特許を取得することができない場合が多く、先進国の医薬品メーカーの医薬品保護には大きな障害となっている。
この規定に関連する注目を浴びた近年の事例としては、スイス・ノバルティス社の抗癌剤Glivec に関する特許出願がある。

難しい内容かもしれませんが、言っている事は以下。
新薬開発でも、似たような成分には特許を認めない。


同社が開発したメシル酸イマチニブを主成分とするGlivecは、米国、ロシア、中国を含むおよそ40 カ国で特許が認められているが、当時インドでは物質特許が認められていなかったため、インドの特許法改正後、同社は結晶構造を改良したものを特許出願した。
しかし、2006 年、インド特許庁は既知の化合物の新規な形態の発見にすぎないとして拒絶した。
同社はGlivec が既知の化合物と比較して優れた溶解性や流動性、吸湿性等があるとして争ったが、2013 年4 月、インド最高裁は、医薬品の「既知の効能」とは「治療上の効能」と狭く厳格に判断されるべきで、治療効果が増大しなければ新たな発明には当たらないとして出願を拒絶する判決を下している。
このニュースは、知財関係者の間で大きな話題となった。

この出願拒絶を受けて、シプラ社、ランバクシー・ラボラトリーズ社など多数のインドの後発薬メーカーが、ノバルティス社の10 分の1 程度の価格でGlivecのジェネリック版の販売をインドで開始しており、本事例はインドの知財事情の特異性を象徴するものとなった。

海外の医薬メーカーからすると莫大な研究費をかけたのに、保護されずにコピーされると現状です。ですが、消費者からすれば新薬が安価に利用できるので評価が難しいところです。
後発薬として安定しているインド製のお薬としては以下のようなものがあります。

カマグラ・シリーズは「硬さ」重視の効果があるバイアグラ・ジェネリックとして世界的にも人気でED治療薬です。

タダシップは効果持続時間が最大36時間の長距離ランナータイプです。
穏やかな効き目で副作用も比較的に起きにくい。

フィンペシアはAGA(男性型脱毛症)へ絶大な効果がある抜け毛防止に利用できるお薬です。

ロニタブは服用タイプで育毛・発毛が期待できます。女性も使用できるお薬です。

頻発する強制実施権付与請求とは

インド市場におけるもう一つの脅威として、後発薬メーカーによる強制実施権付与の請求がある。

強制実施権とは、特許権者の承諾がなくても、その特許の実施権を第三者に付与することであり、各国の特許法において認められている。

しかし、特許は一定の技術について発明者に独占権を保障する制度であり、これの強制実施権を安易に第三者に付与することは、特許権の安定性、信頼性に重大な影響を及ぼす。したがって、国家といえども特許の強制実施は、公共の必要に応ずるため、緊急事態に対処するため等、例外的な場合にのみ行われるものである。

日本をはじめとする先進国では、近年、強制実施権が発動された事例はないが、インド特許法は、特許発明がインドの領域内で実施されていない場合に加えて、特許製品の価格が高く、公衆に十分に利用可能となっていない場合にも強制実施権付与を認めております。近年、これを根拠とするインドの後発薬メーカーからの付与の請求が相次いでいる。

どこの国でも自国の産業や国民を第一に考えるように、インドでも国家として保護をしているようです。これらの政策は単なる泥棒行為ではなく、弱者(経済途上国)として国民の健康、命を守るためであれば、海外諸国も強く文句が言いにくい事情もあるのかと思います。

2011 年5 月には、ドイツ・バイエル社が、同社の抗癌剤Nexavar のジェネリック版を販売していたインドのナトコ社に対して、特許権侵害訴訟を起こした。同年7月、ナトコ社は対抗措置としてバイエル社の同抗癌剤の価格が高すぎることを理由に強制実施権の付与を求め、2013 年3 月、インドの知的財産審判部が強制実施権を付与する決定をしている。ナトコ社がライセンス料として支払う金額はナトコ社の販売価格の7%と定められたが、ナトコ社はバイエル社の約30 分の1 の低価格で販売していたため、対バイエル社薬価比でのライセンス料は約0.2%にすぎなかった。

先進国の医薬品メーカーの近年の動き

先進国の医薬品メーカーの近年の動き

このように、インドでは他国で新薬特許権が成立している状況下でも、特許満了前でありながら新薬成分での医薬品の製造販売を行っている場合が多い。
同様にインド国内の多数のメーカーが新薬の販売に参入しインド国内や、インドと同様に法的保護が薄い他の新興国向けに安価に新薬を大量に輸出し成長してきた。

このような状況下で結果として、インドでは低コストで医薬品を合成する技術力が磨かれ、先進国の企業からの原薬製造のアウトソーシング先としても活用されており、先進国への輸出の増加にもつながっている。

上記のような医薬品を安価に製造する技術と、インドの医薬品市場の成長性に着目し、近年、先進国のメーカーがインド国内のメーカーを吸収合併したり、大規模な業務提携を行い、後発医薬品事業の新規参入・強化をしたりする動きが目立っている。

意見は分かれるとは思いますが、低コストでの薬の製造技術力が向上して、結果として安価でも高品質な医薬品が製造できるようなった。
と言う、ところでしょうね。

例えば、2008 年に、第一三共がインドの後発薬大手のランバクシー・ラボラトリーズ社を約48 億ドルで買収し、株式の約64%を取得したことは日本でも大きく報じられた。
このほかにも、2012 年に、ドイツ製薬大手のメルク社がインドの後発薬大手ドクター・レディーズ・ラボラトリーズ(DRL) 社とバイオ医薬品の共同開発に関する業務提携を行っている

また、米国の後発薬大手のマイラン社も、2009 年、インドの大手バイオテクノロジー企業のバイオコン社とバイオ医薬品の共同開発に関する業務提携を行っている。
マイラン社は、2013 年、インドの注射薬メーカー、アギラ社の買収も行っている。

今後も続々バイオ系の特許満了

こうした動きには、近年注目を集めているバイオ医薬品の特許期間の満了を見越したものが多い。バイオ医薬品は、抗体、ホルモンなどの生化学医薬品であり、遺伝子組み換えや細胞培養等の高度な技術を駆使して製造される複雑な分子構造の高分子化合物であるため、化学合成で製造される従来の低分子化合物医薬品とは大きく異なり、全く同一構造の生化学物質を異なる方法で製造することは極めて難しい。

そのため、バイオ医薬品の後発薬(バイオ・ジェネリック医薬品) は「バイオ・シミラー」と称されており、新薬に準じるレベルの試験データの提出も求められる。従来の低分子化合物医薬品の分野では、2010 年前後に、大型医薬品が相次いで特許権満了を迎えたが、バイオ医薬品は遅れて登場してきたため、特許権の満了が2015 年以降に控えているものが多く、今後、本格的にバイオ・シミラーが市場に登場してくることが期待されている。

インドの安価なコスト、市場と大手メーカーの技術やノウハウ

インドの製薬大手は、バイオ技術についても着実に力を蓄えつつある。特に、バイオコン社とその提携先の米マイラン社は、ドイツの製薬大手ロッシュ社の乳がん治療薬Herceptin のバイオ・シミラーの世界初の認可をインドで取得し、2014 年2 月にインドでの製造販売を開始している。また、DRL 社は、既にインドで販売開始しているロッシュ社のリンパ種治療薬rituximab等のバイオ・シミラーの欧州認可取得に向けた臨床試験をドイツ・メルク社と連携して行うと発表している。
インドの医薬品メーカーの安価な製造技術を利用して新興国市場で優位な地位を築きたい先進国の医薬品メーカーと、生化学分野でさらなる技術やノウハウを獲得したいインドの医薬品メーカーの利害が一致した結果といえるだろう。

インドのコピー薬品は安全なコピー品

インドのコピー薬品は安全なコピー品

インドの後発薬品は単にジェネリックと表現しきれないのは上記で述べたように国策として製薬特許を認めない場合があります。
このため本来は製薬特許で保護され他メーカーは製造・販売が出来ないがインド国内での製造に関しては「ある種のコピー」は違法ではありません。

これらは確かに特許を取得したメーカーや国側からすると違法な理不尽な感じあるかもしれません。
ですが、方や特許により高額な医薬品により助かる命が助からない現実もある事も考慮に入れて判断をしたい。

どのように安全なインド薬品なのか?

コピー品というと、品質が低いというイメージもありますが、先進国ではないインドの製造業としての品質が一律低水準と見なすのは正しくはありません。確かに、医薬メーカーとして体をなして無いような零細企業の工場規模の医薬品の製造業もあるようです。
このような、ある種、違法に操業しているような薬の製造業は避けるようにして、大手製薬メーカーを選択すれば良いのです。
株式を上場しているような大手が製造している薬ならば、インド製でも間違いが起きる事は無いでしょう。

日本人の品質要求の高さは世界的にも高水準である事より、インド製品では日本の品質要求を満たさないこともあります。ですが、これはインドに限った事ではなく欧米諸国でも日本の基準に合わせるのが難しいのが現実といわれています。

日本の品質要求は世界的にも高い事で知られています。

しかし、インドメーカー内でも米国FDAの認可を受け米国市場の基準に合わられるインド製薬メーカーもあります。一般的な考え方としてはインドは技術が低いから日本の基準に合わせられないのではありません。主だった顧客はインド国内であるので、過剰に高い管理基準等で品質を上げる製造は現状はしてないようです。その理由はやはりコストの問題でしょう。
日本や欧米の基準で製品を製造すると、原材料や品質管理のコストが挙げる事になり、結果的にインド国内での販売には適さない価格となってしまいます。

インド製でも十分に日本市場向けの品質要求を満たすことは可能であり、特に大手メーカーではインド国内向けと諸外国向けの異なる製品ラインや製品ペッケージを持つなどで対応もしています。

例えば、製薬業界では製品のパッケージや容器への傷などの問題があります。
欧米では気にならないかもしれませんが、日本では商品価値を損なう可能性があるため許されないこととされています。
また、欧米のメーカーは錠剤の黒い斑点が製造時に入り込んだ異物だとしても人体に無害であれば保証の対象とはしない。
これに反して日本では、製品の有害無害かだけでなく製造工程からの異常も重視されるので、このようなイレギュラーな製品も許容されない。

このように、一概にインドや欧米の品質は決して悪い訳ではないが日本の基準に合わないために「海外ジェネリックは危険」だと言われるのは、どうなのだろうか?

インドの今後について

インドの今後について

今後のけん引役として期待されている新興国の医薬品市場では、引き続き安価な医薬品に対する需要は高まると予測されています。これは言わずと知れた品質に問題がない後発薬であるならば安価な選択肢としてインド・ジェネリックも入るでしょう。

急速な発展を遂げつつあるインドの製薬業界だが、インド企業の医薬品の品質が先進国の厳しい規制を満たさない事例も起きている。
前述の、第一三共が子会社化したランバクシー・ラボラトリーズ社の複数のインド工場が、米国FDA (食品医薬品局) から相次いで品質管理体制の不備を指摘され、対米輸出禁止を受けた。その結果、買収直後に同社株価が7 割近く下落、第一三共は2009 年3 月期の決算で巨額減損を計上せざるを得なくなった。
同工場の品質管理についてはデータ改ざん問題などもあったようで、品質管理体制の再構築に向けて真剣に取り組まざるを得ない状況にあるという。
このような事情もあり株式会社ともなっている各インドの大手製薬会社は株主からの要求からも品質向上も進んでいくでしょう。それに伴いインドの後発薬品の世界での占有率も高まっていく事になるでしょう。

新型コロナウィルスと強制実施権

ここに来て背景は簡単ではないが、インドでの新型コロナウィルスの存在に再び目を向ける。
インドでも壊滅的なコロナの拡大、医療品の不足などと、状況が改善されて来たとは言え、新型コロナウィルスによってもたらされた公衆衛生上の緊急事態は強制実施権を発動するためのすべての要件を満たしていました。しかし、インド政府は「強制実施権規定の発動」は必要ないと指摘。これには、多くの人を驚かせたようです。
また、2020年10月に開催されたTRIPS理事会の前に、インドが南アフリカと共同で新型コロナウィルスに対処するための知的財産権の放棄を提案していたことを考えれば、インドにおける国際的な特許関係者がこのような立場や方針に注目するのは当然のことでしょう。

インドというと医薬品よりIT 産業でのアウトソーシング先として確固たる地位を築いたインドだが、今後、製薬産業がさらなる成長を遂げられるかどうか、同国の知財政策も含め、引き続き注意深く観察して行く必要があるだろう。

参考サイト

インドの製薬産業 – 医薬品

インド製薬産業の現状と展望

インドにおける医薬品産業と特許法

特許制度改革後のインド医薬品市場をめぐる政策動向

日本専門医薬セミナー・海外ジェネリック個人輸入通販啓蒙サイト